脱・ベンダーロックイン【DX】は製造業が主導する
とある企業のDXパートナー、いねおけです
DX推進にスグ役立つ!書籍のご紹介です
DX時代における製造業のあるべき姿勢や、システムの導入方針についての解説が参考になります
「日本の製造業」に対する現状の問題点考察や、その解決策の提案がされており、日本独自の商習慣や体質が起因して進まない企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推し進める為のヒントが詰め込まれています
今回は
こんな順番で、書籍の魅力を御紹介します
前提として、著者である久次 昌彦氏は現在、世界的PLMツールメーカーであるAras社の日本法人アラスジャパン合同会社の社長さんです
そういった背景を考えると「Aras社の製品販売促進につながることが前提」の書籍であることは意識して読み進める必要があるかもしれません
ここでは製品(Aras社のPLM)そのものではなく、日本のモノづくりをより良いものにする為に役立つ知識やマインドを中心に御紹介します
企業のDX推進に役に立つ考え方と具体的な打ち手が詰まった良書です
「情シス主導のDXでは現場の理解が得られない」「ツール導入がDXの目的になりつつある」「デジタル的な改善の必要性がわからない」「PLMツールとは何かわからない」
こんな方には特にオススメです
これからのモノづくり
Society5.0を日本が目指すべき未来社会のビジョンである、と語った上で製造業がこのビジョン実現に貢献するには、ヒトとモノがデジタルでつながる世界の製造業を実現する為の仕組みが必要であり
- モノづくりに必要な情報の一元管理
- 簡単なアクセスで関係者が正しい情報を使ってモノづくりが可能
- 信頼出来る唯一の情報源
これらを実現出来るデジタルプラットフォームが必要である、と紹介されています
本書に限らず「モノづくりの複雑さは今後増すばかりである」といった観点の考察が最近多く見られます
サステナビリティの観点からも製造業に対する規制は強化され続けており、モノづくりに求められる要件は増え続けています
要件が増えてもこれまで以上に効率的なモノづくりを進めて品質や生産性を高めていかなくてはならないことから、デジタルプラットフォームの整備は製造業のDXに有効な手段であると共感できます
ベンダーロックイン
デジタル化がうまく進まない理由の1つとして「IT業界の慣習」があるとしています
具体的には
- ソフトウェアベンダーによる、デジタル化ツールに関する情報の囲い込み
- 情報共有コミュニティが未発達でノウハウ共有ができていない
- 顧客であるユーザーとソフトウェアベンダーの関係希薄
こういった状況だと、ソフトウェアベンダー主導で情報が統制されたり、ベンダーの囲い込み戦略(ベンダーロックイン)に取り込まれて、ユーザー企業の自由度が制限されます
新しいビジネスプロセス実現には、スモールスタートで迅速にトライし、フェイルファストで不都合な部分を素早く見つけ、改善を継続していく必要があります
ところが、ベンダーにロックインされているとスピード感はもとより、システムの活用にも制約が出て、ビジネスプロセスのあるべき姿を阻害する要因につながりかねません
本書のタイトルにもなっている「ベンダーロックイン」という状態の恐ろしさが紹介されています
DX SQUAREの記事では、2023年3月にIPAが公開した「DX推進指標 自己診断結果 分析レポート(2022年版)」の解説をしています
その中で、DXにおいて取り組めていない項目として「DXの実行やデジタルに精通した人材の確保や育成についても滞っている」と紹介されています
ソフトウェア利用者知識不足のDX、ソフトウェアベンダー主導のDXにならない様に注意が必要です
日本製造業の現状
2022年6月に公表されたIDMの世界競争力年鑑のランキングでは、日本は63か国中34位と、1991年の1位から下降の一途をたどっています
その原因の一つがモノづくりにおける「デジタル化の遅れ」であり、日本の製造業がより長く競争力を維持する為には「日本企業に合ったデジタル化」が不可欠です
3次元CAD導入と新興国の成長
もともと日本の製造業は積極的にIT化に取り組み、他国と比べてもITの導入が進んでいる方でした
3次元CADの導入においても、日本で1990年代以降に導入されたのに対し、中国や韓国では数年遅れて2000年前後に導入が始まりました
しかしながら後発の中国・韓国が日本を追い越し、急速な発展を見せる結果となります
この原因の1つに日本の製造業は3次元CADの導入以前に2次元CADを使った電子化が進んでいたことが挙げられます
中国、韓国では更地の上にビルを建てるように、最初から3次元設計を前提としたプロセスをベースに3次元CADを導入することが可能だった為、一気に成果を上げることができたのです
日本的コミュニケーション力の強味
モノづくりにおいて、日本の製造業が隆盛を誇った1つの要因として「人による情報共有が長けていた点」があります
- お客様の立場になって受け取る人の気持ちで物事を考える
- 自分の役割ではなくとも目的達成の為に協力して問題を解決する
- 物事を俯瞰で見る
- 長期的な視点で仕事を進める
海外には行間や空気で通じ合う感覚があまりありません
ドキュメントが優先されて、たとえ口頭で違うと伝えても、仕事はドキュメント通りに進められます
時代と共に製造業がグローバル化していく過程で、言葉や対面によるコミュニケーションよりもドキュメント化されたルールを優先することが当たり前になり、日本におけるモノづくりの強味が消されてしまいます
日本製造業の現状紹介、及び、分析として3次元CADの導入に関する考察と、日本文化に関する記事をピックアップしてご紹介しました
中国・韓国の急成長を背景とし、3次元CADを効率的に利用することの優位性を体系的に語られています
対して、日本製造業の現場では「古き良き」日本のレガシーが進歩の邪魔をしてしまった背景の解説と、現状を打開して「日本企業を再び世界のモノづくり大国とする」為の提案が沢山書かれています
日本のモノづくりのレベルは高く、誇るべきものがあると改めて感じました
ただし、グローバルにモノづくりを進めるこの時代に合わせる為「情報を共有する」「必要な相手に情報を知らせる」といった役割をITに担わせる必要があるなと強く感じました
PLMシステム
PLMシステムに求める要件
業務改善と共に変わっていく仕事のやり方に柔軟に対応できるフレキシビリティが必要
PLMシステムユーザーに求めること
- PLMシステム導入に際しては「自社の強味は何か?」「強味を強化するためにはどのようなITを導入すべきか?」を自分自身で考える必要があります
- 「業務をシステムに合わせてください」というフレーズは、一見ベストプラクティスを簡単に取り込む、正しい判断の様に聞こえます。しかしPLMシステムでは、自社のカルチャーを変えてまでシステムを導入するのは逆効果です
最後にPLMに関する記述で、印象的な記述をほんの少しだけ紹介しました
ERPなど、他のソフトウェアと異なりPLMはモノづくりに関わるソフトウェアです
つまり「競争領域」のプラットフォームであり、独自性や会社文化の反映が必要な領域であると説いています
「システムを業務に合わせるべきだ」の言葉から、ソフトウェア利用者、あるいは、製造業従事者を中心に考えてくれているなと感じとることができます
まとめ
書籍「ベンダーロックイン DX時代のソフトウエア民主化革命」を御紹介しました
DXを進めろと言われても、何から手を付けて良いか分からない…
そんな状態を脱する為の具体的な知識や考え方を身に付けるのに適した良書です
「日本製造業」独自の立ち位置の解説や、良い点・悪い点を客観的に分析し、今後再び世界を相手に発展する為の具体的な打ち手の提案までがされており、「これが実現できれば本当にモノづくりの世界が変わるかもしれない」と思える内容になっています