【DX】教育・リスキリング。3階層設計で人材育成を成功させるポイントを解説します。
とある企業のDX応援団、いねおけです。
DXにとって、デジタル活用が大切なのは当たり前ですが、システム導入は手段であり、目的ではありません。
本当に大切なのは、「競争上の優位性を確立すること」です。その為には、業務や企業そのものを支えているヒト・人材がビジネス環境の変化に対応できるスペックを維持しなくてはならず、教育の受講や、リスキリングが重要となってきます。
また、企業での対応を考えると、1人の人間だけが知識を向上するのではなく、チーム全体で取り組む姿勢が必要です。場合によっては、企業文化や風土の変化といったレベル感の改革が必要になるかもしれません。
DXをザツに言い換えるならば、「効率の良い、新しことをやって、他と差別化しようぜ!」と解釈できるでしょう。
「効率が良い」とは何か?
「新しいこと」とは何か?
これらを知識として知る事が出来るのが教育です。さらに、優良な教育コンテンツには、こういった情報を応用して、ビジネスに展開する為のヒントがつまっています。
教育を活用することで、効率的に、意味のあるDXを進めていきましょう。
人材育成の全体像と【DX】推進のレベルについて整理する
初めに、DX推進における、人材の必要性やレベル感など、全体像を整理しましょう。
上の図の通り、DXに関連する人材をレベル1~3に分けて考えることで、どういった人材に、どういった知識が必要なのか、教育やリスキリングが効果的なのかが整理しやすくなります。
レベル1
「DXとは何か?」といった言葉の意味や、「なぜDXが必要なのか?」といった社会的背景などの学習が必要な層をレベル1と定義します。
「なぜDXが必要なのか?」を全従業員に理解してもらうことで、DXは自分にも関係があることだと気付いてもらう事が目的です。
多くの社員から理解を得ることで、現場の「DX推進に対する抵抗感」が無くなると、改革を進めやすくなります。
教育内容・指針としてはデジタルスキル標準のDXリテラシー標準(DSS-L)が参考になります。例えば以下の様な内容が含まれるイメージです。
- ビジネス環境の変化が加速している、といった社会背景
- 新しい技術の情報
- データ活用の事例
- ユーザーの意識の変化
- ビジネスモデルの変化
- 優良事例(例:データ活用で売り上げアップ、新しいビジネスモデルの創出)
- 不良事例(例:古いやり方を引きずり、ゲームチェンジについていけなかった)
便宜上「レベル1」と表現したので、レベルが低い人材、必要性の低い人材の様に感じられるかもしれませんが、そんなことは全くありません。多くの従業員にとって、既存の業務を守ることが使命であり、その活動が会社を支えています。
そんな従業員に対して、DX推進担当が教育を押し付けては、反発を買うでしょう。
既存業務を守る従業員に敬意をはらい、相手に目線を合わせる、状況を理解する、立場を考えるといった姿勢をとることも重要です。
あなたのやり方は間違っていない、むしろ今まで会社を支えてきてくれたのはあなたです!なのでDXもあなたと共に進めたい!!だから一緒に勉強してください!!!
レベル2
DX推進プロジェクトにおいて、個別チームのリーダーを務める、あるいは、プロジェクトに参加するメンバーとして改革を前進させる様な役割を担う人材をレベル2と定義します。
デジタル活用で自社を強化する絵図を描き、実現に向けた取り組みを進めることが目的です。
教育内容・指針としてはデジタルスキル標準のDX推進スキル標準(DSS-P)が参考になります。例えば以下の様な内容が含まれるイメージです。
- DXの目標設定
- 既存事業の高度化
- 新規事業の創出
DXの必要性を理解して、かつ、自社の既存業務を理解しながら、DXプロジェクトに参加して、改革を前に推し進めることが出来る人材を、レベル2と定義しました。
デジタル活用によって、自社の強味を伸ばし弱みを補強するような立ち回り、あるいは既存業務から半歩踏み出した新しいビジネスモデルの構築に向けて、実現するための絵図を描き、改革を実行する為の人員です。
DX推進スキル標準(DSS-P)の中でも、ビジネスアーキテクトやデザイナーといった人材類型の観点が役に立ちます。
レベル3
DX推進において、経営インパクトに直結する判断や活動が期待される者や、高度な専門知識が必要な役割を担う人材をレベル3と定義します。
高レベルスキル。人材確保・育成の難易度は高いが、DX推進に必要不可欠。
教育内容・指針としてはデジタルスキル標準のDX推進スキル標準(DSS-P)が参考になります。具体的に以下の様なスキルセットが必要だと解説されています。
DX推進プロジェクトにおける目標設定までが出来たとしても、いざそれを実現するとなると大変な労力と、高度なスキルレベルが必要になります。
市況や社会動向を把握し、自社の現状を理解し、進むべき道を判断できる能力。
あるいは、目標を具体化するIT的な技術力や、セキュリティリスクをコントロールしながら事業を拡大する体制の整備などがそれにあたるでしょう。
IT人材についてはアウトソースを頼りがちですが、可能な限りインハウス人材を確保することが重要です。得に、上流設計が可能な人材は外部ではなく、自社で確保することが、DX推進において重要なポイントとなってきます。
DX推進において教育が重要な理由
DX推進には、さまざまな壁が立ちはだかります。
この壁を、DX担当だけで乗り越えようとするのは悪手です。教育を活用して、意味のあるDXを進めましょう。
DX推進担当がぶつかるさまざまな壁(Before像)
まずは「教育をしない場合」にどんな壁に行き当たるかを見ていきましょう。
下図の通り、DX推進担当が単独で壁を避けながらDXを推進するのは効率が悪く、かつ、生み出すアウトプットも弱いものになります。
「長い時間をかけて取り組んだのに、意味なかったね」ということになりかねません。
経営層の理解不足による壁
- 目的が決まらない
- DXで何を成し遂げたいか、どんな改革を目指すべきかが決まらない
- 本来は「手段」であるはずのデジタル導入が「目的」になってしまう
- ビジネスにつながらない
- 改善や効率化にとどまり、改革に至らない
- 投資に見合った効果の回収ができない
- 予算が出ない
- 何に対して投資するべきか、何故投資するべきかの判断ができない
- デジタルシステムへの投資の優先度が上がらない
従業員の理解不足による壁
- いままでのやり方
- 現状のままで良いという主張
- 効率が悪い業務をそのまま続けてしまう
- そもそも、いまのやり方に問題があると気が付けない
- 時間がない、人がいない
- 既存の業務を優先、DX推進に協力しない
- 現場の声が反映されないので、不用な電子化が進み、使ってもらえない
細いスキマを通すDXでは意味がない
上記の様な、さまざまな壁を乗り越える作業を、DX推進だけでこなすのは困難です。根回しや調整ばかりに工数がとられ、効果の薄い施策しかできず、誰も望まないシステムが導入されるのでは意味がありません。
こうならない為に教育が重要なのです。
知っているコトが増えて、知識のレベルが合う事で初めて、同じ目標に向かった会話が成立します。多くの従業員がDXを「自分事」と捉えて、知恵を出し合い、改革に向かう職場環境を作るには、知識のインプットである教育がとても有効です。
では、先ほどあげたさまざまな壁に対して、教育がどんな効果を発揮するのかを見ていきましょう。
教育がDX推進を加速させる(After像)
教育は、従業員に対してはもちろん、経営層に対しても有効です。
人の意識が変化することで、DXを阻む様々な壁を低くする効果があります。
さらには、プロジェクトへの積極的な参加や、前向きな意見出しの促進、新しいアイディアの創出などにつながることが期待できます。
経営層の理解向上
DXの目的
経営層のDXに対する理解度が上がると「目標設定がはっきりする」ことが期待できます。
企業活動の目的と効果が最大化される企業判断が行われ、その為に有効な手段として「デジタル活用」が選択肢に入ってきます。「とりあえず、DXやっといて」という様な、解像度の低い指示がなくなることが期待できます。
ビジネスにつながるDX
費用対効果を意識した方策を選ぶことが出来る様になります。
リターンの大きな選択や、新ビジネス創出に向けた投資判断が可能となり、その根拠を体系的に整理された知識として得ることができます。
DX推進の優先度アップ
目的やゴールイメージがシッカリとしたDX像を持ち、リターンが見込めるビジネス構想が出来上がれば、DXの優先度が上がります。DX推進には外部ベンダーの協力も必要なので、必要に応じて予算がかかります。ある程度予算がないと、プロジェクトが全く進まない様なことになってしまいます。投資⇒リターン⇒更なる投資⇒リターン…という様な、ポジティブなループを回す為に、DXに対する優先度が上がることが望ましいのです。
従業員の理解向上
業務を変える意識
「いままでのやり方で仕事が回っているから、このままで良い、このままが良い」という意識が変わります。何故なら、デジタル技術は日々進歩しており、最新の技術を用いることで成功を勝ち取る事例が多数存在するからです。こういった背景を知識として学ぶことが、変化の必要性を受け入れやすくする、あるいは、変化するべきだと考え始めるキッカケになります。
自分事として参加する
DXはシステム導入がゴールではありません。デジタルをどの様に活用するのかをヒトが決めて、それを成果につなげることが目的です。全員がデジタル活用の方法や、業務の改革、ビジネスの創出について、自分事として考え、参加するチーム作りが必要です。
DX教育では「失敗を受け入れる」文化の形成や、アジャイルな取り組みで「多産多死」を前提としたプロジェクト運営などの重要性についても学ぶことができます。職場の風土やルールに変革を起こすことで、多くの人材がDXに参加できる、あるいは参加したいと思える環境を生み出します。
教育方針の全体像を設計する
自社に合った内容で、効果の高い教育に取り組む必要があります。
ビジネスパーソンにとって「時間」は有限であり、既存の業務を続けながら、教育受講時間を確保するというのは想像以上に難しいのです。
「いままでやっていた業務を減らしてあげるから勉強して」ということにはならず、多くの企業では「既存業務もしっかりやりながら、勉強して」となるからです。
こういった背景を踏まえても、貴重な時間、限られた工数を割り当てる教育は、効率の良さや、効果の高さを意識する必要があります。
現状分析
まずは現状分析を行い、スキルや人材の不足状況を整理しましょう。
自社に必要な技術が何なのか。得意な領域をさらに伸ばすのか、苦手な領域を補強するのか。退職予定の人員しか持っていないスキルはないか。新入社員に期待するスキルは何なのか。こういった内容を整理して、自社に必要なスキルを特定し、そこを深堀出来る体制を整えましょう。
外に目を向けると、ライバル企業の動向なども参考になります。他社が発表した新しい製品やサービスは、どういった背景から生まれたものなのかを調査、検討する事で、自社にはないスキルセットが必要だと気が付くことが出来るかもしれません。
技術やビジネスの最新トレンドについても参考になります。最近だとAI活用などのトレンドをいち早くキャッチし、技術者の育成を行っていた企業の成功事例が多く存在します。
教育方針
現状にあった教育方針を決定しましょう。
「何を学ぶか?」このスコープ設定が重要です。
現状分析の結果から得られた情報、状況を整理して、何を学ぶことが自社の利益につながるかを検討します。貴重な資源である「ビジネスパーソンの時間」を教育でどのように消費するのか、優先度を考慮しながら検討しましょう。
目標や期間の設定も重要です。
教育の目標は、定性的なものと、定量的なもの、双方の設定が望ましいです。
また、これらを実現するまでの期間についても設定しましょう。半年~1年程度に設定し、設定した期間ごとに進捗状況を確認し、次の目標設定をし直すことが大切です。
- 定性的な目標
- データ活用により、根拠ある経営判断を実現する
- 定量的な目標
- 10人×30時間のビジネスアーキテクト講座受講
- データサイエンティスト検定合格者3名
教育方法
難易度、期待効果、コストなどから教育方法を選択します。
社内の勉強会や、自社で作成する教育資料の様な「自社コンテンツ」は、習得難易度や専門性が低い(※)場合に向いています。例えば、少人数でリテラシーレベルの内容を学び、それを全社員向けに展開しなおす様なイメージです。低コストで作成、運用可能です。
(※:自社専門外の領域の教育を想定した場合です。)
最近では「Eラーニング」研修も充実しています。習得難易度は低いものから高いものまで様々です。まとまった時間が取れない人でも、スキマ時間を活用しながら学習を進められるのが強味です。数か月~1年かけて受講を進めます。
売り物のコンテンツなので、コストはかかるものの、人的リソースを占有する形式ではないので、コストは「中」程度でしょう。
「外部講師」による研修コンテンツは、習得難易度や専門性が高い場合に向いています。数日~数か月の間に集中して高度な教育を受け、技術や知識を習得することが可能です。集合研修や、オンライン講義、ハンズオン研修など形式は様々です。
他社の人的リソースを占有する為、コストは大きくなります。
アウトプット
教育受講後は、アウトプットする場所がある事が重要です。
受講者にとっては、知識の増加やスキルの向上を実感できる場になます。管理者(教育計画者)にとっては、評価・効果測定の機会となります。
複数の受講者間で、知識のレベルが合い、会話の質が向上するでしょう。こういった小さなコミュニティのレベルアップを、職場全体・会社全体に伝播することが出来ると、職場の雰囲気や文化が変わります。
「得られた知識で仕事のやり方をより良いものにした」「スキルを身に付けて新しいビジネスを創出した」というアウトプットが創出され続ける現場を作ることが大切です。
教育を継続する仕組み作り
良い教育を「続ける」ことで、効果を蓄積し、範囲を拡大することができます。
継続できる教育環境を整えていくことが大切です。
個人のやる気・自主性
まずは個人のやる気や、自主性の創出が重要になります。
その人にあった学習内容であり、学びが困りごとの解決につながる様なコンテンツを準備する必要があります。学びたいと思える優良なコンテンツを選ぶことは大切です。
例えば、若い社員にとっては、紙の教科書が大量に届く通信教育は、時代遅れで、やる気が起きないかもしれません。逆に、YouTubeの様にスマホで視聴が可能であれば、スキマ時間を使って効率的に学習を進めてくれるかもしません。
チームで情報共有・協力
学習の進捗状況や、成果をチームで共有することは、学習を継続する環境づくりに効果的です。隣で同僚が勉強していると、自分もやった方が良いかもな、と思ってしまうものです。こうした小さな刺激でも良いので、お互いにキッカケを与え合う環境を整えることが効果的です。
また、外部研修など、既存業務を一定期間離れる必要がある教育コンテンツもあります。教育受講者が抜ける穴をチームで埋めること、そして受講者はその成果を職場にフィードバックしてチーム力の強化につなげること。こういった協力体制を構築することが重要です。
管理者による測定・評価
会社や組織にとって有益で価値のある知識を身に付けた者を、認識・評価することは管理者の責任です。資格取得の様な目に見える成果であれば、インセンティブを与えるなどの対応がとりやすいですね。資格取得に至らずとも、知識や経験を積み、業務の改善や職務の改革に貢献する教育コンテンツは沢山あります。学習はその過程にも価値がある事を認識し、そういった知識を習得した従業員を認識し、評価することが重要です。
受講者に新たな教育を受けさせるもよし。重要なプロジェクトを任せるも良し。個々の従業員、あるいは組織全体が学び続け、それを業務につなげ、ビジネスを拡大する体制を作りましょう。
DX人材の成長過程
DX推進の観点から、人が育つ、人材育成が成功するというのがどういうことなのかを整理します。イメージが湧きやすいように、3段階に分けて整理してみます。
レベル1 : 理解者
ビジネス環境の変化の速さを認識し、その対向手段としてデジタル活用が有効であること理解した状態。DX推進を手段として捉え、既存業務の高度化や新ビジネスの創出に好意的なマインドを有する状態。
DX人材Lv.1は上記のような人物を指します。
社内のノウハウや技術だけではなく、IT技術やビジネストレンドなど、社内の動向にも目を向けて、積極的に情報を収集し、自己研鑽に努めようとする姿勢が整った状態だと言えるでしょう。
レベル2 : 推進者
DXの必要性を理解しただけではなく、頭を使い、手を動かして、業務改革やビジネス創出に参加する状態。DXに繋がる取り組みに参加する小グループのリーダーや、そのメンバー。
DX人材Lv.2は上記のような人物を指します。
自社が目指すべき姿を認識し、現状の強みと弱みを把握してデジタル技術を活用することで、企業活動における競争上の優位を生み出す役割を担う人材だと言えるでしょう。
レベル3 : 専門家
デジタル活用を具体化し、環境を構築することが可能な有識者。全社規模の意思決定に影響を与え、ビジネス改革に向けた舵取りを任される者。
DX人材Lv.3は上記のような人物を指します。
デジタルの専門家としては、インフラ、システム、セキュリティなどの高度な知識を有し、IT技術導入を先導できる人材。ビジネスのスペシャリストとしては、世の中の技術動向と、自社のビジネスを理解し、良いバランスで掛け合わせ、リターンを創出できる人材。このような人材だと言えるでしょう。
まとめ
DX推進における「教育」の重要性について解説しました。要点をまとめて振り返ります。
初めはDXにおける、教育の全体像と対象者の関連付けを、3段階にわけて整理しました。
(レベル:概要:対象者)
レベル1:入門~理解:全ビジネスパーソン
レベル2:DX推進:DX推進プロジェクトリーダー、メンバー
レベル3:エキスパート:専門家、経営判断
次に、教育に期待する効果を説明しました。
経営層や従業員が持つ「DX推進を阻害するマインド」を、教育によって変化させることが重要です。DX推進担当が、無駄な根回し・回り道をしながら進めるDXではなく、経営層や従業員から協力を得ながら進める有意義なDXを実現する為に、教育が不可欠であるという内容です。
これらを実現する為の教育方針設計についても解説しました。
現状分析から始めて、自社にあった教育内容や目標、期間を設定します。次に、これを叶える教育方法を選択します。そして、教育受講だけでは終わらないよう、アウトプットの機会を設定します。
教育を継続できる環境づくりも大切でした。
優良なコンテンツで個人のやる気を高め、教育が受講できる文化形成をチームで行い、管理者がキャッチアップして評価することで、個人としても、組織としても成長が実感できる環境を構築することがポイントです。
これにより、理解者⇒推進者⇒専門家といったステップを踏み、DX推進に欠かせない人材へと成長することができます。
以上です。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。